サイコパス ―冷淡な脳― James Blair 他

統合失調症は某量のリスク要因であると指摘されている一方で、特にサイコパスあるいはADHDでさえ、その合併についてはほとんど実証されていない。しかし、これは驚くほどのことではない。統合失調症は前頭前皮質のなかでも背外側前頭前皮質の全般的な障害に関連している。一方で、サイコパスは背外側前頭前皮質の生涯には関係がないとい報告が一貫してなされている。

うつ病とサイコパス因子は逆相関する。

サイコパス傾向を示す者は1.23%から3.46%であり、成人男性におけるサイコパスの発病率は0.75%と推定される。女性に関してはデータが乏しいが、0.25%程度。

反社会的な人々は、少なくともふたつの集団に分離される。道具的かつ反応的攻撃を示す人々と、反応的攻撃だけを示す人々である。

うつ、不安についての最近の知見では、基本脅威回路の中でも特に海馬の化活動が重要な役割を果たしていることが示されている。

近年の知見によると、サイコパスにみられるような道具的攻撃のリスク増大に出産時合併症が関連しているということは考えにくい。

慢性的なストレスは反応的攻撃の危険性を選択的に増大させるが、サイコパスにみられる道具的攻撃にはつながらないことが示唆される。

例えば自閉症のように愛着に問題があることがわかっている人々でも、他者が表す苦悩に対して嫌悪反応を示す。つまり、他者の苦悩に対する嫌悪反応に愛着は必ずしも必要ではない。したがって、少なくとも共感反応のなかの一部については、愛着がどうであるかに関係なく生じることが明らかである。

中程度のサイコパスは、家族からの影響をより強く受けている可能性が高く、高度なサイコパスは、生物学的な要素からの影響をより強く受けている可能性が高い。

驚くべきことに、このような子供たち(サイコパスと関係する罪悪感や後悔の念の欠如といった情動の障害を示す子ども)に関して言えば、親がどのようにして社会性を身につけさせるのかということは、彼らが示す反社会的行動の確率には統計的に影響を及ぼさないことがわかっている。

サイコパスでは、著しく共感性が障害されている。サイコパスの子どもや成人は、他者の悲しみに対する自律神経反応が減弱している。さらに、表情や音声に伴う恐怖や悲しみの認知にも障害がみられる。注目すべきことに、サイコパスは、表情や音声に伴う怒り、幸福、驚きに対する反応については障害がない。

道徳的違反とは、他者の権利や幸福への影響といった観点から定義される行動である ex 他人を叩いたり、他人の財産を侵害したりするなど
慣習的違反とは、社会秩序への影響といった観点から定義される行動である ex 授業中私語をしたり、異性の服を着たりするなど
健常者は、道徳的違反と慣習的違反の違いを識別する。生後39ヶ月を過ぎるとこれらの識別ができるようになり、これは文化間においても違いは見られない。……サイコパスは、子どもでも成人でも、道徳/慣習識別課題の成績が非常に悪い。健常者なら3歳になれば適切にできるこの課題を、サイコパスは成人になってもできない。





サイコパスでは、言語処理への感情入力が著しく減弱している。道徳観念に関する概念的知識が乏しく、語彙決定における情動的情報の影響が弱く、意味的知識を調べる特定の課題において適切な感情入力を著しく欠く。さらに、言語/意味処理において広範な障害があることが示唆されている。

たいていの人は、自動的に自分の行動がもたらす結果を予測し、自動的に薄情な行為を恥じ、自動的に障害に直面しつつもなぜやり遂げるべきなのか理解し、自動的に都合の良すぎる主張に疑いを持ち、自動的に他者をどう関わったらいいのかに気づくが、サイコパスでは、そうした事柄を理解するのにかなりの努力を要する Newman

ネズミがバーを押すことでひもに吊るされた(他の)ネズミを地面に下ろすことができることを学習すると、そのネズミは以後、レバーを押すようになる。

健常に成長する子供は、まず他人の苦痛に対して嫌悪を抱き、そして社会化を通じ、他人に苦痛をもたらす行動を頭に思い浮かべることに対しても嫌悪するようになる。サイコパスではこのシステムに障害があり、他人に苦痛をもたらす行動がVIM(暴力抑制機構)の引き金にならないと考えられている。

刺激が右視野に提示された場合、サイコパスは抽象的カテゴリーでの識別が著しく困難であった。しかし、刺激が左視野に提示された場合には、むしろ健常者より成績が良かった。
似た実験として、両耳異刺激聴過大を用いて、サイコパスと健常者に対し右あるいは左の耳に単語を聞かせ、それが何であったかを答えるように求めた。サイコパスは健常者に比べ、右耳に単語が提示されたときに適切に返答することができなかったが、左耳の場合にはそうではなかった。

前頭葉損傷患者は、反応的攻撃は示すが道具的攻撃は示さない。

反応的攻撃は、哺乳類の動物が脅威に面した際に示す究極の反応と考えられる。哺乳類が脅威に対して示す反応には、段階がある。人間を含めて哺乳類は、脅威から距離がある場合には停止し、近くなってくると逃走し、逃げられないほどの恐怖に対したときには爆発的な攻撃(反応的攻撃)を示す。

集団のなかで地位の高い者が怒りを表出する場合、反応的攻撃は抑制され、道具的行動に取って代わられる。一方で、地位の低い者が表出する怒りは、反応的攻撃を引き起こす皮質した回路網の活性化をもたらす。

うつや不安な状態にある子供や成人は、反応的攻撃のリスクが増大する。

サイコパスは、子どもでも成人でも、道徳と慣習の違反の識別が適切にできない。……サイコパスの成人は、幸福や悲しみ、そして困惑といった複雑な情動についてさえ適切な判断を示すにもかかわらず、罪悪感を誘発しそうな状況理解については障害を示す。

健常に発達している子供に対して医は、養育者が共感性をうまく引き出すような養育方法をとることで、反社会的行動を起こす確率を減少させられることが繰り返し示されてきている。一方で、サイコパスの情動的機能不全を示す子どもに対しては、そういう効果が見られない。

道具的反社会的行動に対して、最も社会化を成し遂げる無条件刺激は、被害者の苦痛である。サイコパスの示す扁桃体機能不全は、社会化を妨げていると考えられる。

最近んの神経画像研究により、健常者は、信頼できる場合より信頼できないと判断する顔に対して、扁桃体体の活性が高まることが明らかになっている。

サイコパスの根本的原因は遺伝子異常であることが推測され、扁桃体機能全体が障害されるのではなく、おそらく扁桃体機能のある一部と関連するある特定の神経伝達物質の機能が阻害されることで、より選択的に障害されていることが示唆される。われわれは、サイコパスでは、ストレス/脅威刺激に対するノルアドレナリンの反応が障害されていると主張したい。

道具的攻撃のリスク増大に関連する生物学的基盤を持つ障害はサイコパスだけである。
現在のところ、サイコパス以外に道具的攻撃のリスク増大に関する生物学的基盤を持つ障害が存在することを示す知見は存在しない。